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カナリア

「ごめんください。」
と、女の声がする。柔らかな、それでいて、ハリのある声である。

女は開け放たれた玄関から声をかけてきているが、私は庭に面した居間にいてタバコの火をつけたばかりだった。
「こちらです。」
と女を呼んでみた。

「ああ、そちらでしたか!」
女はそういいながら庭の踏み石を歩きながら、居間の縁側に立つ私に近付いてきた。まあ、息子の嫁ぐらいの歳だろう。

この真夏に黒い上着に黒いズボンをはいた女がヒールの音をさせながら笑顔で私の方に歩ってくる。

長い髪をアップにまとめ、この真夏に白い顔をし、口角をあげた笑顔は‘商売人‘といった感じがいかにもである。オレンジ色の口紅が昔の映画女優のようだ。

女は、社名を名乗り名前を告げ、ペコリと頭をさげた。
化粧品を売る女であるらしい。

「奥さまにお会いしたくて参りました。」
と、女は女官のように言い、そしてなんともいえない笑顔を見せた。

「男にはわからないねえ、あいにくウチのは出掛けているし・・。」
私は、タバコをくわえなおしながら言った。
「恐れいります・・。それにしても素敵なお庭ですね。」
女は、あたりを見回す・・。戦意喪失、世間話で場をにごすつもりだろう。

午後3時過ぎ・・。
妻はどこかに出かけ、いつの間にかいない。(最近、何も言わずに出かける事がある。)
昼寝にも飽きた私は庭に打ち水をし、飼っているカナリア達を庭の木陰にカゴごとつるした・・。

この連日の暑さに鳥達も参ってしまうから、吹き抜ける風に当てるのだ。
「暑いから、カゴを外にだしているのですね。」
女は、嬉しそうにカナリアのいる籠をひとつひとつ見ている・・。

「まるで夢のようなお庭ですね。」
女はいい、少し鳥の話をしたのちまた、ペコリと頭をさげて門から出て行った。

居間にもどり、タバコをもみ消し、ソファに寝転んだ。

もう夏も終りだ。今日は処暑であるし・・。

カナリアは五羽、カゴごとに松の枝につるした・・。

ヒグラシの鳴く夕暮れ、庭をぼんやり見ている。
白地に青い朝顔の柄のある浴衣を着た娘が、松の木の下に立っている。

「どうした、家に入れ。蚊にくわれるぞ・・。」
私はその娘に言う。

娘は振り返って言った。
「お父さん、カナリアが逃げてしまいました。」

娘は泣きそうな顔をして私を見ている。
「また買ってきてやるよ・・。」
私は娘の泣き顔に心掻きむしられる思いで、かけよろうとする・・。


・・・そこで私は目覚めたのだが、もう庭は日が落ちて真っ暗になっていた。

「あなた、加賀屋の天ぷらうどんを買ってきましたよ。」

茗荷を刻む匂いがする。
妻がいつのまにか帰って来ていて、台所で音を立てていた。

カナリア達は、家の中にしまわれておとなしくしている。

「お父さん・・。」
夢の中の娘の言った言葉が異様なリアリティで頭に残っていた。

あの女である。白い顔の化粧品を売る女である。

「あなた、誰か来た?」
「いや・・。」

「そうね、寝てたものね、鳥もしまわず・。」
妻はそう言うと、小さなチラシを見もしないでゴミ箱に捨てた。

あの女が帰り際に私に渡した、エステというもののチラシである。



「お父さん、カナリアが・・。」

「また買ってきてやるよ・・。」

ああ、どうして私は娘を持たなかったのだろう。



「あなた、なに?」

「ああ、なんでもないよ。」

眺めた庭はすっかり夜に包まれ、蝉の音に変わって切ない虫の鳴き声がコロコロと響いていた。










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Sister Victoria

Author:Sister Victoria
いつも訪れてくださってありがとうございます。

<今日の一言>

3月 13日 (金)

いやはや、早いもので明日はホワイトディです。

今までは、バレンタインはひとりでしたが、今年は複数です。今年は、6個買ってます。おお!

ファーストとセカンド、完全に間違いましたね。(笑)

まあ、こんな間違いも経て、大事なものを再認識するのですよ・・。てへへ。

まあ、こらしめに残しておきます。シェリごっこは、終了かな。

*****

2月 8日 (日)


26歳の頃、初めて「シェリ」を読んだ。

レアはとても大人に思えた。今、レアと同世代になって

レアのような恋ができるなんて幸せ。

彼を大事に思って、生きていきます。彼の母親に敬意を

払いつつ・・。






***************

この一言は残します。



秋の陽だまりに眠るクロッケを忘れないために。

それと、私にとっての断捨離のために。




10月 8日 (水)

わりと、残暑の残る秋ですね。

日中、部屋にいると汗ばむのです。

新しい仕事も落ち着いたのか、頭の整理もついたのか、変な夢も見なくなりました。

黒猫クロッケの老いを最近ひしひしと感じる。この秋も悔いのないように彼に接しよう・・。

この世で一番私を気にして生きていてくれる大事な存在。

あっちの彼は(笑)、世界で一番私に気にしていて欲しい人。少しくらい放置しても、他に愛がたくさんあるみたいだから大丈夫です。(笑)

クロッケは今私の部屋でお昼寝中です。

彼の寝息が聞こえる、平和な秋のお昼どきです。

今日はこれから、美容院です。

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♥. ♠. ♣Alice
愛のカレンダー
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